戦争 - コロナ後の人生。| 気づきに満ちた世界と私
2022年07月12日

米国/イランは戦争に突入するのか

はじめに ~なぜ米国は米軍増派を行っているのか~

去る2015年に米英仏ロ中の国連安保理常任理事国に独国を加えた6か国とイランの間で、2012年から継続している経済制裁の一部緩和と引き換えに核開発を制限する合意(イランの核問題を巡る「7か国協議」)を締結した背景には、当時勢力拡大を図るイスラム系武装集団「イスラム国(IS)」への対抗勢力としてイランの役割に期待する譲歩がありました。

合意の中で今次米トランプ政権が問題視するのが、①高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間生産凍結、②貯蔵濃縮ウラン10トンを300キロに削減、③1万9,000基の遠心分離機を10年間で6,104基に制限する条項に対してであります。

 

期限を過ぎた後に無制限での核開発が可能となり弾道ミサイル開発も制止していないことが理由であります。
そして昨年(2018年)5月に米国はこの合意からの離脱を公表し9月に二次制裁を復活させ、今年5月にイラン産原油輸入禁止を猶予されていた我が国を含む8か国に対しても全面禁輸を迫るに至っているのが今日の政治情勢であります。

つまりイランが米国との間で核合意に関する再交渉に臨めば良いわけであるが平和利用目的の核開発は国家主権であるとイランは応じないです。

一方、米欧州軍第6艦隊から第12リンカーン海軍空母打撃群、第7空母航空群、アーリントン海兵強襲揚陸指揮艦、米国ルイジアナ州空軍基地から空軍爆撃部隊B-52H戦略爆撃機、ペトリオット迎撃部隊等を中東に派遣するに至りました。英国、スペインからの部隊支援も見受けられるものの駆逐艦、特殊部隊といった規模に限定されています。

イスラエルからの情報によりイラン革命防衛隊及びその支援を受ける民兵組織によるイスラエルやサウジアラビア、駐留米軍からなる約40,000人及び基地施設に対する攻撃の警鐘がもたらされ、米中央軍がこの警鐘に基づき部隊防護と抑止力強化のため増派要請を行ったからであります。

 

イスラエルの危機感はイランが支援するレバノンのヒズボラ、パレスチナ・ガザ地区のハマス、シリアに展開するイラン革命防衛隊からの脅威の拡大認識であり、アラブ首長国連邦(UAE)沖でのサウジタンカーへの攻撃、イエメンからサウジ領内のパイプラインへの攻撃、バグダッド中心部の政府施設や大使館が集中する旧米軍管理地区へのイラク民兵組織からの攻撃は全てイランの支援を得たものとされ危機感の証左となって米軍増派を誘導したものであります。

 

戦争の可能性 ~戦争に突入する可能性はあるのか~

本格的な武力衝突や国家間戦争の事態となれば中東全域が巻き込まれるというシナリオは容易に推定されています。

イスラエルはシリアから米軍が撤退したことによりイランから支援を受ける勢力やシリアに所在する革命防衛隊、パレスチナのハマスから異方向同時攻撃に晒され、ハマスとイスラム同胞団繋がりのエジプトの介入を招きます。

 

同様にシリアからの米軍撤退によってそれまで米軍に守られていたクルド部隊はトルコ、ロシアの進駐を受け、東西に分断されているクルドの統一に危機感を抱くトルコの攻撃に晒されています。

 

この間隙をぬってISは勢力を回復しアフガン内の勢力と呼応してアフガニスタン政権を脅かしパキスタンに波及します。サウジアラビアはイランの支援を受ける勢力及びイランからの直接攻撃に晒されイラク国内のシーア派民兵組織も呼応します。

 

ロシアとイラン間の正式な軍事協定は無いものの、ロシアの関与も懸念され、中国はパキスタンのグワダル港に軍事プレゼンスを進出させます。パレスチナとの交流を維持する北朝鮮にとっては武器輸出の機会であり同時に自国に置き換え対峙するインド太平洋軍の動向を注視する事態となります。

一方でイランの原油輸出能力は日量250万バレルであるが米国の二次制裁開始に伴い本年5月時点では100万バレルに減少している模様である。最大の輸入国である中国は約80万バレル規模と推定され、中国が禁輸に応じたとも伝えられることから、イランの石油輸出はほぼ完全に停止状態となりました。サウジアラビアの生産余力は330万バレルでありイランの減産分を補填し得れます。しかし本格的な戦争となれば主要なペルシャ湾沿岸地域に集中する石油関連インフラはほぼ壊滅するであろうことから全世界規模での経済的混乱に発展します。

イラク戦争当時と作戦環境は大きく異なり米地上軍の戦略侵攻は困難であるためオスプレーで海兵隊部隊を侵攻させるのが限界であります。よって完全な制圧には短期で至らず大規模な戦略爆撃に依存することとなる。革命防衛隊を中心に非対称戦闘が展開され米軍側が劣勢に陥ればイランへの戦術核兵器使用も否定できない。いずれにせよ米軍は大被害を生じイランは国家壊滅の危機に瀕します。

 

このシナリオ認識があるからこそ米国、イラン双方の姿勢は抑制的となっているのであります。
5月24日に米軍増派と喧伝されたが、1,500人規模であり海兵隊部隊の最小単位(中隊)レベルに留まっています。
現時点で米国とイランの間での本格的武力紛争(国家間の戦争)が生起するかと言えば、答えは否であるります。

おわりに ~戦争突入の時期を考える時の指標は何か~

米国において宣戦布告及び戦争予算承認の権能は議会に在るが、米軍最高司令官である大統領は「戦争権限法」により60日間、最大90日間の軍事行動を独自の決断において採り得れます。

 

ベトナム戦争、イラク戦争おいても議会の宣戦布告は結局無くなし崩しの感も否定できないです。一方で9.11米国同時多発テロ後に制定された「武力行使権限の承認(AUMF)」に基づき米軍は個別的に議会から承認を得ることなくテロ組織を攻撃可能な状態にあります。

 

去る2007年に既にその指定が成されているにも拘わらず今年4月8日にイラン軍事組織であるイスラム革命防衛隊に対し改めて「外国テロ組織(FTO)」の指定が成された。また主権の象徴である米軍部隊や米軍人に対する攻撃が発生した場合直ちに米国は自衛権を発動し得れます。

 

こえらの点を考慮すると、イスラム革命防衛隊が駐留する米軍部隊施設に極地的攻撃を仕掛けた場合や偶発的な衝突が発生した場合戦闘が発生する。国際法上の復仇の要件、限度の判断は当事国が行うため米軍は反撃します。軽視してならないのはペルシャ帝国の末裔との誇りに火が付いた場合イランは徹底抗戦するであろうことから、高烈度の国家間戦争に発展する。したがって革命防衛隊の動向が戦闘突入の時期を決定ります。

一方で計画された武力侵攻であればこの場合ラマダンの時期(今年は5月5日から6月3日)や気候(例えばペルシャ湾沿岸の昼間気温50度、砂嵐の時期等)、気象、地形特性などが侵攻開始時期・時間を決定する。近年メディア対策も重視されていることから第一報は随伴するCNNの臨時ニュースであろうが、戦闘開始のタイミングが近づけば情報は一時途絶するものであり、それがまた戦闘開始時期を示唆するシグナルとなります。

現時点で最も重視すべきなのは5月8日イランのロウハニ大統領が60日間の濃縮ウラン及び重水の売却停止を宣言する一方で関係5か国に対し60日間は再協議に応じる姿勢を見せたことであります。銀行や石油の分野を含めイランの基本的な利益が確保されるのであれば停止措置を解除するもののそうでない場合には核合意以前の状況、つまり核開発を進めるとした。したがって7月7日までは膠着状態が継続し戦争突入は無いと考えられます。

2022年03月15日

新たな局面を迎えたウクライナ勢を巡る「危機」 ~「ソ連科学アカデミー」復権への道程か~

「2022年2月24日」、ロシア勢がウクライナ勢に侵攻を開始した日であります。まさにこの日を境に、グローバル社会は一変し、それ以前のbusiness as usualな日々は消え去ってしまいました。ウクライナ勢を巡る「危機」は、もはや「ウクライナ戦争」とでも言うべき情勢にまで発展し、株価や為替、コモディティなどマーケットも乱高下を続けています。

そうした中で、今次「戦争」においては、ウクライナ勢の核関連施設や研究所等、技術インフラの他、キエフ・テレビ塔や世界最大の航空機「アントノフAn-225」など「象徴的」なターゲットへの攻撃も相次いでいるという点が気になりなります。一般的には、こうした主要インフラを破壊することで、圧力を強め、戦況、停戦交渉を有利に進める狙いがあるとみられているが、ロシア勢にはそれ以上に深い狙いがあるのではないでしょうか。

図表:破壊された世界最大の航空機「アントノフAn-225」

(出典:Twitter

ロシア勢では貴重な独立系報道機関とされている『コメルサント』紙は、去る3月9日(モスクワ時間)、次のような記事を掲載しました(参考

  • 国営宇宙企業ロスコスモスのドミトリー・ロゴージン総裁が、今次「特別作戦」を通じて、旧ソ連時代よりウクライナ勢に残っていたロケット宇宙産業の工場をロスコスモスの工場へ統合することで、「歴史的な科学的および産業的協力」を回復することになると述べている
  • さらにロゴージン総裁は、ウクライナ勢が「ソ連時代の遺産を荒廃」させたとした上で、その技術的劣化を克服するための支援をするとともに、先進的な宇宙ロケット技術を生み出す共同作業を実施するとも述べている

この記事からもロシア勢の狙いは、一般的に言われているような「領土的野心」とは別に、ウクライナ勢がもつ「ソ連科学アカデミー」時代以来の科学技術利権の奪取にこそあるのではないかという分析もできるのではないでしょうか。

旧ソ連時代のウクライナ勢は、核開発や原子力発電、航空宇宙分野の研究拠点とされ、そのポテンシャルは現在に至るまで維持されています。例えば、エンジニアリングの学位取得者は13万人もおり、これはロシア勢は言うに及ばず、英国勢やドイツ勢をもしのぐ高い水準であります(参考)。

図表:エンジニアリングの学位取得者数の比較
(出典:JETRO

一昨年(2020年)には、「Good Country Index」にて、次のようなパラメーターが評価され、科学技術能力においてウクライナ勢は163か国中14位にランクインしています(参考):

    • 留学生数
    • 学術論文掲載数
    • 科学系の出版数
  • ノーベル賞受賞者数
  • 特許協力条約(PCT)の出願数

同Indexによると、首都キエフの他、ハリコフ、リヴィウ、オデッサ、ドニプロなどのウクライナ勢の都市が「世界で最も革新的な都市リスト」に含まれているという。いずれも今次「戦争」において侵攻中、もしくは攻撃対象とされている都市であります。

「精神状態に異変が起きているのでは」とまで“喧伝”されているプーチン大統領であるが、同大統領をしてここまで軍事侵攻をエスカレーションさせている背景の一つとして、ソ連勢崩壊と同時に散逸してしまった科学技術利権を統合し、復活させたいとの野望もあるのではないでしょう。

その背景としては、イェリツィン大統領時代、「グローバル化」の名の下にユダヤ勢=アシュケナージ勢によって籠絡され、旧ソ連時代の科学技術利権が散逸させられたという情報もありあます(参考)。イェリツィン大統領自身はロシア人であったが、彼を取り巻く政府高官のほとんどがユダヤ勢であり、その中には米国勢のアドヴァイザーも含まれていました。中でも、米国勢を代表する経済学者であるジェフリー=サックス・ハーバード大学教授(現:コロンビア大学教授)は、イェリツィン政権に対する「アドヴァイス」を行い、結果としてソ連勢をロシア勢へと転換する中でその無力化を図る主導的な役割を果たしたことで知られています。

図表:イェリツィンに指名されて新生ロシア連邦の大統領代行に就任したプーチン
(出典:Wikipedia

これらに加えて、去る3月11日(米東部時間)には、国連安保理でロシア勢は、「米国勢が支援してウクライナ勢の研究所で、生物兵器の開発が行われている証拠がある」との主張を展開し始めました(参考)。米国勢はこれを「偽情報」としてロシア勢を非難した上で、ロシア勢によって化学兵器が使われる可能性に警鐘を鳴らし始めました(参考)。

ロシア勢、米国勢ともにその主張に根拠が示されておらず、その真偽や今後の展開は、現時点では明らかではないが、米国家安全保障アーカイブ(NSA)内に、「ソヴィエト生物兵器システムの解体(“Cracking open the Soviet biological weapons system”)」との記録があり、その中ではソ連勢における生物兵器開発の実態について、次のように記述されています(参考):

  • 1970年代半ばからソ連勢は「バイオプレパラト」と呼ばれる生物兵器の開発・製造組織を構築。1989年に同組織のウラジミール・パセクニック博士が英国勢に亡命し、その実態が英国勢に明かされる。同時に米国勢にもその情報は共有された
  • スヴェルドロフスク炭疽菌漏出事故を受けて、米英勢より実施されたデマルシェ(申し入れ)に対するソ連外務省のメモによると、米英両国は生物兵器の分野でソ連勢が大規模な秘密のプログラムを展開しているという情報をすでに持っていた
  • 1990年、ベイカー米国務長官が訪ソした際、シュワルナゼ・ソ連外相に対し、生物兵器の問題について懸念を表明する

上記の記述からも、米国勢は旧ソ連時代における生物兵器プログラムについて、かなり詳細につかんでおり、そのことをソ連勢も知悉していたと思われることからも、現在、報道されているロシア勢、米国勢の主張をそれぞれ「陰謀論」として片づけるのは時期尚早であり、両サイドの主張を丹念に追っていく必要があるでしょう。

以上を踏まえた上で、今後の「ウクライナ戦争」の動向をみていく上では、旧ソ連時代の科学アカデミーにおける利権と拠点がどこに散逸したのか、といった歴史的観点もあるいは重要となるのではないでしょう。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
原田 大靖 記す


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