ウクライナ - コロナ後の人生。| 気づきに満ちた世界と私
2022年05月10日

満洲国の経験と日露関係 ~我が国はロシア勢といかに向き合うか~

ロシア勢によるウクライナ勢侵攻開始からおよそ2か月が経過し、事態は未だ予断を許さないです。

今回の戦争がいかに決着するにせよ、ロシア勢の隣国である我が国は常に同国勢との向き合い方を模索する必要があります。

そのような思索の糸口として今回取り上げるのは満洲国であります。

満州国は我が国の関東軍により建国された多民族国家であるが、その構成民族の一つにロシア人が含まれていました。

満洲国は、日露両民族が同じ環境において共生の道を模索した経験としても理解することができます。

同国勢におけるロシア人の在り方を回顧することは、今後の日露関係を構想する材料たると思います。

(図表:満州国の首都・新京の大同通り)

(出典:Wikipedia

中国東北部へのロシア人の流入は、19世紀末のロシア帝国勢による鉄道敷設を嚆矢とします。

ロシア帝国勢は中国東北部進出のため、シベリア鉄道と連結する形で鉄道を整備し、遼東半島の旅順までの敷設を実現しました。

加えて同鉄道沿線においてはロシア式のインフラストラクチャーが建設され、後に多くのロシア人が中国勢へと移住する素地を築いた。

ロシア帝国勢からの移民・亡命者は「白系ロシア人」と呼ばれた。特にロシア革命以後は多数のロシア人がソヴィエト勢の支配から逃れる形で中国北東部へ流入しました。彼らはロシア正教への信仰とツァーリに対する崇拝を堅持し、政治的にはソヴィエト勢の社会主義を否定する立場にありました。このようなイデオロギーは彼らが設立したロシア人向けの民族学校にも反映され、ロシア帝国民としてのアイデンティティの世代を超えた継承が図られていました(参考)。

ロシア革命を経てロシア帝国勢の保有していた鉄道の利権をソヴィエト勢が継承して以降、亡命者のみならずソヴィエト国籍を有するロシア人も多数中国勢に移住した。帝政期からソヴィエト連邦時代にかけて、満洲勢は物資輸出対象として重要視され、体制の変革を経ても尚鉄道を通じた同地域への進出は継続されました(参考)(参考)。

満洲勢に居住した2種類のロシア人はその数において拮抗し、当初は彼ら自身のアイデンティティにおいて対立しました。尤も両者の対立は、彼らの子や孫の世代に至っては希薄なものとなり、寧ろ同じ言語を話し日常的に交流する中で、共通のアイデンティティが形成されていきました(参考)。

(図表:満州国に設置された白系露人事務局)

(出典:Wikipedia

 我が国主導のもと建国された満洲国は、同地域に居住していた人々のアイデンティティに対し大きな衝撃を与えました。

同国勢は国是として「民族協和」、即ち異なる民族が手を取り合い共に国家を発展させていくという理念を標榜していました。しかし建国から崩壊に至る13年余りの時間では、その高遠な国是に豊かな内実が伴うには至らなかったです。満洲国において試みられた文化・教育政策はその実態において言わば諸民族の「日本化」でありました。

日本人以外の「五族」に対し、彼らが「他者」であることを忘却、ないし否定することが「民族協和」の大きな一面であったが、ロシア人におけるその受け取り方は、中国人などのそれとはやや異なっていたようです。「民族協和」の内実を成すことを使命として誕生した満洲国の国立大学である建国大学のロシア人学生は、他の民族が被っていたような日本人からの差別を経験せず、同大学での日本式の生活や日本語教育を楽しんでいたといいます(参考)。これには、大学側が他の民族に比べてロシア人学生を丁重に扱ったこと、彼らの日本語能力があまり高くなく日本人学生と密なコミュニケーションを取れなかったことなどが関係しているのではないでしょうか(参考)。言わば彼らは、国民統合を急ぐ満洲国にあって、相対的にとは言え同化されることを猶予され、あくまで「他者」として扱われていました。

(図表:満州国に創立された建国大学)

(出典:Wikipedia

兎も角、満洲国という存在は、ある程度の規模の日本人とロシア人が同じ環境で共生を試みた経験として重要であります。

現在の日露両国勢の長年の懸案事項としては北方領土問題が第一に挙げられるであろうが、こうした両国勢の共生の道を模索する場面において満洲国の経験を回顧することには意義があります。

北方領土の帰属がいかに決着するにせよ、同地域が厳密に一方の領土と化すことは考えにくいです。

現状においても漁業における協力や草の根での交流活動がなされ、仮に我が国への返還が成ったとしても一定数のロシア系住民が住み慣れた土地に留まる可能性を考えれば、同地域の帰属問題は国民国家の枠組みに捕らわれず推移していくであると思います。

そのような中で我々が満洲国の経験から学ぶべき教訓は、相手が「他者」であるということを受け入れることの重要性ではないでしょう。

満洲国においては、「民族協和」の名のもとに他民族という「他者」の存在が無視されんとした。ロシア人という「他者」との共生の可能性を考える上でも、この点は重要であります。

満州国のロシア人に対しては、「民族協和」的政策が他民族に比べ行き届かなかったからこそ、却って深い禍根を残すことがなかったです。

我々とは全く異なる来歴を辿り全く異なる価値観を形成してきた他者が隣に居ることを受け入れ、その上で相手を理解しようと努めること、満洲国という我が国による多民族国家建設の試みに欠けていたものはこれであります。そしてこの姿勢は、草の根においても、国家間のレヴェルにおいても不可欠なものでしょう。

2022年04月05日

半導体業界における地政学リスクの影響とは ~安全保障と自由経済の相克~

半導体業界がこれまで以上に激動の時代を迎えている。コロナウィルスによるパンデミック、米中対立、それから今次ウクライナ危機によるサプライチェーンの混乱懸念であります。こうしたサプライチェーンの混乱の背景には、他の業界と比較してより地政学リスクの影響を受けやすい半導体業界の性質が根本にあり、本論ではそれぞれの地政学リスクを振り返りつつ、今次ウクライナ情勢における「危機」における影響としてどのような展開可能性があるのか以下論じています。

まず始めに、コロナウィルスの影響が生じ始めたのは昨年頃であった。コロナウィルスによる影響で、自動車から家電製品にいたるまで、幅広い機器が半導体不足によって生産に支障が出て、品不足や操業停止を経験しました。コロナ禍のIT需要によるものという見方もできる一方、米中対立影響も関係していると捉えることができます。丁度、米中対立を巡り中国に対する経済的な対立姿勢を鮮明にし始め、去る(2019年)以降から、中国企業のファーウェイに対する締め付けを行った。この影響が一つの要因として台湾企業に影響したものと考えられます。

(図表:トランプ前米大統領(左)と習近平国家主席(右))

(出典:Will Online

そして、天候も地政学リスクの一つとして機能することもあり、去る(2021年)には、米国国内のテキサス州に大寒波が襲い電力不足に陥り、我が国でも同年3月自動車用半導体大手のルネサスエレクトロニクス社の生産子会社で火事が発生、それから少し離れた台湾では水不足が起きました。この他、コロナ禍ということもあり世界的にコンテナが不足しており、運送費が高騰なども加わった結果、複雑に絡み合う地政学リスクの要因が今日に至るまで解決へと導けていない理由でもある。これらの半導体における混乱はアジア勢に製造拠点が集中している結果発生しており、同時に、米欧勢にアジアからの脱却を促す契機ともなりました。

それでは、今次ウクライナ勢を巡る「危機」ではどうだろうか。ウクライナ勢とロシア勢との緊張が未だに続いているが、最初に静寂を破ったのはロシア勢だった。2月24日(米国時間)の朝において侵攻を開始し、最初に狙いを定めた場所の一つがウクライナ最大級の港湾都市であるオデッサであります。オデッサには世界の半導体生産に大きな役割を果たしているネオンガスメーカーの2社があり、ウクライナ勢・オデッサに本社を置くCryoinと、マリウポリに本社を置くIngasがそれぞれ工場の操業を停止したと報じています(参考)。世界の供給の約50パーセントを占めている2社の操業停止が、上述で紹介した半導体のサプライチェーンの混乱に拍車をかけることが最大の懸念となっています。

そしてこの影響を大きく受けているのは半導体業界の中でもとりわけ製造分野である。ウクライナから産出されるネオンガスは、DUV (深紫外)露光装置の光源であるエキシマレーザーに不可欠な不活性ガスで、ウクライナはネオンガスの世界供給の約70パーセントを生産しており、半導体不足が懸念されている理由がここにあります(参考)。現状では、格付け会社ムーディーズによると半導体各社はウクライナ情勢を予見し備蓄していていることから、世界における供給の約50パーセントを占める2社によるネオン供給も、大きな影響を受けていないとされています(参考)。しかしながら、ネオンが半導体製造に重要であることから、備蓄が直接的に安心を与える材料になることはなく、数か月のモラトリアムに過ぎないことは言うまでもない。実際に半導体露光装置大手のASML社など他の調達先を探そうとしているところ、まだ調達先の多様化の目途が立っていないのも現実であります(参考)。

(図表:オランダ半導体露光装置大手ASML社)

(出典:REUTERS

こうした混沌とした半導体業界に新たな手を打ちアジア・マーケットからの脱却を図った企業が半導体素子メーカーのインテル社である。今後10年間、アジアからの脱却を画策し欧州勢(EU)域内において総額約800億ユーロを投じることで、研究開発から製造、最新のパッケージング技術までの半導体バリューチェーンの構築を計画し、そのうち330億ユーロを投資して欧州域内における研究開発・製造拠点を拡大することを発表しました(参考)。また米国勢においても「シリコン・デザート」と呼ばれるアリゾナ州でTSMC(台湾積体電路製造)の工場を建設誘致することに成功しており、他方、我が国においても熊本県にTSMCの工場を誘致し、ソニーと共に設備投資8000億円の出資と、雇用1500人の創設を予定しています(参考)。

(図表:インテル社半導体製造拠点のイメージ)

(出典:Gigazin

コロナウィルスによるパンデミック、米中対立、それから今回のウクライナ情勢は、半導体業界におけるプレイヤーや関係国勢にサプライチェーンの見直しの重要性を示したのみならず、半導体産業の持つ地政学的価値の重要さに気づかせたのではないだろうか。台湾勢のTSMCを巡る工場誘致の争いが激化することが今後も予想されています。しかしながらその際に重要なことは、TSMCの工場誘致の延長線上に中国勢との地政学リスクの可能性も忘れてはならない(参考)。今回インテル社がアジア勢からの脱却を目指し欧州勢(EU)に進出した背景にはそうした思惑もあります。

こうした各国の思惑が半導体業界において錯綜する中で、元来中国勢や台湾勢、それから韓国勢により集中していた半導体マーケットを移そうと画策している点で、半導体業界の地政学リスクは新しい時代に入り変容していると言えます。かつて我が国企業が衰退した原因とも指摘されている垂直型から海外では水平型へ半導体業界がシフトしたのだが、結局その転換が半導体業界の設計から組み立てまでのサプライチェーンを複雑化し、本論で取り上げたようなコロナウィルスや米中対立などの地政学リスクの影響を受け混乱しやすい構造となっています。この意味で今回取り上げたインテル社の欧州勢の地域内で生産から組み立てを完結する取り組みは長期的には解決策となる可能性があります。益々競争が激しくなる中、国際情勢を俯瞰的に見て戦略を打ち出すことが各国や企業には求められるでしょう。

2022年03月29日

「ポスト・コロナ社会」の理想と現実:2022年の地政学リスクから読み解く

2022年に入り、世界各地で地政学リスクの高まりがみられている。中央アジアのカザフスタンでは、年明けから大規模な反政府デモに揺れており、事態鎮静化のためにロシアの精鋭部隊が派遣される展開となった。他方、西側ではウクライナ情勢を巡って緊張が続いている。我が国では大きく報道されていないものの、ロシアは、ウクライナを巡る米国との安全保障協議が暗礁に乗り上げていることを受け、このまま緊張が続けばベネズエラかキューバに軍を派遣することも示唆しています。

炎上したアルマトイの市庁舎
出典:Reuters

そうした中で、毎年のことであるが、米コンサルタント会社「ユーラシア・グループ」は2022年の世界「10大リスク」を発表し、我が国でも大きく報道されていた(参考)。さらに、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の卒業生によって運営されている地政学リスクに関するwebサイト「Global Risk Insights」も同様に2022年の地政学リスク・トップ11を掲げ、2022年の世界を展望しています(参考)。

いずれの展望でも「COVID-19」「中国問題」「エネルギー」「テロ」「巨大IT規制」などの項目を掲げているが、付け詰めるところ、焦点は「グローバル」「金融資本主義」「デジタル」の三点に帰結するものと分析できます。

特に、最も恐ろしいリスクとして懸念されるのが、これら三点すべてに影響を与え得る「COVID-19」であろう。「Global Risk Insights」は、この点、より毒性が強く、ワクチン耐性のある変異株の出現が2022年の最も恐ろしいリスクとする中で、特に、腺ペストの発生が人類最大の脅威となりうるとの懸念を示しています。

去る(2022年)1月15日には、トンガでの大規模噴火を受けて、地球はかつてのように、巻き上げられた火山性エアロゾルにより太陽光が遮断され寒冷化する「火山の冬」が起こるのではないか、という分析もある(参考)。寒冷化がもたらす負のフィードバックとしてやはり懸念されるのが、感染症の流行であるところ、人類と「COVID-19」との戦いは、今後生じ得る新たな「パンデミック」との戦いの序章に過ぎないのかもしれないです。

2022年1月のトンガ大噴火
出典:Indian Express

かつて14世紀、フィレンツェから起こったペスト(黒死病)では、当時の中世ヨーロッパの人口のうち3分の1が犠牲になったという。この時の要因としては、よく14世紀のヨーロッパは「小氷河期」の始まりで気候が寒冷期に移行しつつある中で、冷夏が続き、農作物は不作続きで、食糧は不足し、飢饉が拡大していた、ということが挙げられるが、この度のトンガの噴火がフラクタルに当時の惨禍を再現することも十分考えあり得ます。

また、中世ヨーロッパで起きたペストのインパクトは、生き残った農奴の地位向上に伴う経済構造の転換から、死生観の転換によるルネサンスの胚胎など、まさに世界史の転換を伴うものであった点も忘れてはならないです。

今次パンデミックもこうした世界史の転換に位置づけても過言ではない中で、上述した2022年の各リスクといかに対峙していくかが、この転換を乗り切るカギとなるのではないでしょう。

 

14世紀、ペストの流行を背景に広まった絵画『死の舞踏』
出典:Wikipedia

「ポスト・コロナ社会」は、決してコロナ前の平和な日常が戻ってくるのではなく、むしろさらに複雑化・多様化した社会が到来するということが明らかであります。

そうした中で、中世ヨーロッパでは「生き残る」ことのみが求められていたのに対して、今次パンデミックでは、「グローバル」「金融資本主義」「デジタル」という3つのリテラシーを駆使して、新たな時代を切り開くことが求められるのではないかでしょう。そして、これらのリテラシーをもたぬ者は、早晩、「ポスト・コロナ社会」からの脱落を余儀なくされることになると思います。

 

2022年03月15日

新たな局面を迎えたウクライナ勢を巡る「危機」 ~「ソ連科学アカデミー」復権への道程か~

「2022年2月24日」、ロシア勢がウクライナ勢に侵攻を開始した日であります。まさにこの日を境に、グローバル社会は一変し、それ以前のbusiness as usualな日々は消え去ってしまいました。ウクライナ勢を巡る「危機」は、もはや「ウクライナ戦争」とでも言うべき情勢にまで発展し、株価や為替、コモディティなどマーケットも乱高下を続けています。

そうした中で、今次「戦争」においては、ウクライナ勢の核関連施設や研究所等、技術インフラの他、キエフ・テレビ塔や世界最大の航空機「アントノフAn-225」など「象徴的」なターゲットへの攻撃も相次いでいるという点が気になりなります。一般的には、こうした主要インフラを破壊することで、圧力を強め、戦況、停戦交渉を有利に進める狙いがあるとみられているが、ロシア勢にはそれ以上に深い狙いがあるのではないでしょうか。

図表:破壊された世界最大の航空機「アントノフAn-225」

(出典:Twitter

ロシア勢では貴重な独立系報道機関とされている『コメルサント』紙は、去る3月9日(モスクワ時間)、次のような記事を掲載しました(参考

  • 国営宇宙企業ロスコスモスのドミトリー・ロゴージン総裁が、今次「特別作戦」を通じて、旧ソ連時代よりウクライナ勢に残っていたロケット宇宙産業の工場をロスコスモスの工場へ統合することで、「歴史的な科学的および産業的協力」を回復することになると述べている
  • さらにロゴージン総裁は、ウクライナ勢が「ソ連時代の遺産を荒廃」させたとした上で、その技術的劣化を克服するための支援をするとともに、先進的な宇宙ロケット技術を生み出す共同作業を実施するとも述べている

この記事からもロシア勢の狙いは、一般的に言われているような「領土的野心」とは別に、ウクライナ勢がもつ「ソ連科学アカデミー」時代以来の科学技術利権の奪取にこそあるのではないかという分析もできるのではないでしょうか。

旧ソ連時代のウクライナ勢は、核開発や原子力発電、航空宇宙分野の研究拠点とされ、そのポテンシャルは現在に至るまで維持されています。例えば、エンジニアリングの学位取得者は13万人もおり、これはロシア勢は言うに及ばず、英国勢やドイツ勢をもしのぐ高い水準であります(参考)。

図表:エンジニアリングの学位取得者数の比較
(出典:JETRO

一昨年(2020年)には、「Good Country Index」にて、次のようなパラメーターが評価され、科学技術能力においてウクライナ勢は163か国中14位にランクインしています(参考):

    • 留学生数
    • 学術論文掲載数
    • 科学系の出版数
  • ノーベル賞受賞者数
  • 特許協力条約(PCT)の出願数

同Indexによると、首都キエフの他、ハリコフ、リヴィウ、オデッサ、ドニプロなどのウクライナ勢の都市が「世界で最も革新的な都市リスト」に含まれているという。いずれも今次「戦争」において侵攻中、もしくは攻撃対象とされている都市であります。

「精神状態に異変が起きているのでは」とまで“喧伝”されているプーチン大統領であるが、同大統領をしてここまで軍事侵攻をエスカレーションさせている背景の一つとして、ソ連勢崩壊と同時に散逸してしまった科学技術利権を統合し、復活させたいとの野望もあるのではないでしょう。

その背景としては、イェリツィン大統領時代、「グローバル化」の名の下にユダヤ勢=アシュケナージ勢によって籠絡され、旧ソ連時代の科学技術利権が散逸させられたという情報もありあます(参考)。イェリツィン大統領自身はロシア人であったが、彼を取り巻く政府高官のほとんどがユダヤ勢であり、その中には米国勢のアドヴァイザーも含まれていました。中でも、米国勢を代表する経済学者であるジェフリー=サックス・ハーバード大学教授(現:コロンビア大学教授)は、イェリツィン政権に対する「アドヴァイス」を行い、結果としてソ連勢をロシア勢へと転換する中でその無力化を図る主導的な役割を果たしたことで知られています。

図表:イェリツィンに指名されて新生ロシア連邦の大統領代行に就任したプーチン
(出典:Wikipedia

これらに加えて、去る3月11日(米東部時間)には、国連安保理でロシア勢は、「米国勢が支援してウクライナ勢の研究所で、生物兵器の開発が行われている証拠がある」との主張を展開し始めました(参考)。米国勢はこれを「偽情報」としてロシア勢を非難した上で、ロシア勢によって化学兵器が使われる可能性に警鐘を鳴らし始めました(参考)。

ロシア勢、米国勢ともにその主張に根拠が示されておらず、その真偽や今後の展開は、現時点では明らかではないが、米国家安全保障アーカイブ(NSA)内に、「ソヴィエト生物兵器システムの解体(“Cracking open the Soviet biological weapons system”)」との記録があり、その中ではソ連勢における生物兵器開発の実態について、次のように記述されています(参考):

  • 1970年代半ばからソ連勢は「バイオプレパラト」と呼ばれる生物兵器の開発・製造組織を構築。1989年に同組織のウラジミール・パセクニック博士が英国勢に亡命し、その実態が英国勢に明かされる。同時に米国勢にもその情報は共有された
  • スヴェルドロフスク炭疽菌漏出事故を受けて、米英勢より実施されたデマルシェ(申し入れ)に対するソ連外務省のメモによると、米英両国は生物兵器の分野でソ連勢が大規模な秘密のプログラムを展開しているという情報をすでに持っていた
  • 1990年、ベイカー米国務長官が訪ソした際、シュワルナゼ・ソ連外相に対し、生物兵器の問題について懸念を表明する

上記の記述からも、米国勢は旧ソ連時代における生物兵器プログラムについて、かなり詳細につかんでおり、そのことをソ連勢も知悉していたと思われることからも、現在、報道されているロシア勢、米国勢の主張をそれぞれ「陰謀論」として片づけるのは時期尚早であり、両サイドの主張を丹念に追っていく必要があるでしょう。

以上を踏まえた上で、今後の「ウクライナ戦争」の動向をみていく上では、旧ソ連時代の科学アカデミーにおける利権と拠点がどこに散逸したのか、といった歴史的観点もあるいは重要となるのではないでしょう。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
原田 大靖 記す

2022年03月08日

ウクライナ情勢から見る「近くて遠い中露関係」

去る2022年2月4日(北京時間)、氷点下の冷気が「鳥の巣」と呼ばれる国家体育場と選手らを包む中、2大国のトップによる「新時代の幕明け」を象徴するかのように握手が交わされた。ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席であります。

この2大国により共同で声明が発せられたことは歴史上大きな意味を持ち、プーチン大統領も、「世界中で比べられない程一番強固な関係である(“a relationship that probably cannot be compared with anything in the world.”)」と発言しました(参考)。

握手を交わす中国の習近平国家主席(左)ロシアのプーチン大統領(右)
出典:GlogalResearch

実際中国とロシアは首脳会談で、西側諸国の安全保障の枠組み「AUKUS」や北大西洋条約機構(NATO)から我が国の東京電力福島第一原子力発電所に係る処理水の海洋放出についてなど包括的に話し合いました(参考)。

では、この2か国が共同声明で示した通り、中露の蜜月という単純な「新時代」の構図を見せるのでしょうか。昨今のウクライナ情勢も踏まえつつ、今後の国際秩序について考えてみたいです。

まず中露関係だが、これまで幾度となく蜜月な関係を対外的に示してきました。例えば、米中貿易関係が激化した去る2019年6月5日、習近平国家主席がクレムリンに足を運びプーチン大統領と首脳会談を行きました。会談では、習近平国家主席がプーチン大統領を「親友」と呼ぶなど、中露関係の良好さを対外的に示しています(参考)。

また、この蜜月関係は民間の研究にも及んでおり、特に宇宙開発はその最たる例であるでしょう。ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモスは去る2021年3月9日に、宇宙開発の分野で互いの連携を強調し、米国が主導する有人月探査「アルテミス計画」に対抗する構えを打ち出しました(参考)。

しかし、こうして定期的に中国とロシアの友好的な関係を発信しつつも、実際にシリア内戦などで事態が推移すると両国とも表面上は単独行動を見せ、安保理決議で反対表明をするとき以外は単独行動が目立っていました。こうした両国の関係性から、単に米国の秩序に挑戦する蜜月の関係というわけではないのではないかという疑問が生じています。

カーネギー・モスクワ・センターのアレクサンドル=ガブ-エフ上席研究員によると、中露関係の築く重要なファクターとして、「国境の安定化」と「経済的な依存」、それから「特異な統治体制」を提示しています(参考)。

国境については、両国とも広大な国土を有していることから接する国境線も長く、かつて冷戦時代には、ダマンスキー島で武力衝突にまで至っている。経済的依存については、ロシアが世界有数の資源大国であり、中国はその主な輸出相手国となっています。そして、言及するまでもなく特異な統治としては、西側諸国に対抗する構図で両国の正統性を確立しています。

ダマンスキー島に侵入している様子
出典:RUSSIA BEYOND

こうしてみると中国とロシアにとって蜜月関係でいることで関係の安定化を図っており、中露間の対立要素を可能な限り払拭するためには米国の存在が不可欠であるということがわかります。

しかし、緊迫しているウクライナ情勢を契機に、中露の単独行動にも変化が見え始めています。例えば、去る2022年2月16日(北京時間)、ウクライナ情勢を巡り米国とロシアが対立を見せている中、中国外務省は米国が軍事的脅威を“演出”し、緊張を作りだしていると批判して、ロシア側に立ちました(参考)。

またロシアがウクライナ侵攻後も、中国外務省はイギリスやEU諸国と会談し、ロシアの安全保障に関する訴えは重視され、適切に解決されるべきだと、対外的にロシアの主張に理解を示す内容が発表されています(参考)。

 

ウクライナ問題を巡り関係国に交渉再開を求める王毅中国国務委員兼外相
出典:日本経済新聞

ウクライナ情勢における中国の介入は、確かに今後発生しうる台湾問題を想定したものと捉えられるかもしれないです。

しかしここで重要となるのは、今回ロシアが引き起こしている問題のウクライナは中国にとって一帯一路の重要なハブであるということであります。中国にとってウクライナは中国とヨーロッパを繋ぐ重要な拠点となっており、一帯一路への参加表明をいち早く表明した国であることも忘れてはならないです。すなわち今回中国とロシアとの利権が重なりあう場所がウクライナであり、今後の展開次第では中国とロシアの関係の死角となり得るファクターとして重要なのであります。

このことから米中露関係、とりわけ中国とロシアとの関係の歪みを呈する契機となるのがウクライナ情勢である可能性が高く、ロシアのウクライナ侵攻には中露関係の死角を突いた米国の思惑も見え隠れするのであります。

グローバル社会においてヴォラティリティ―を繰り返し生んできた米中露の3か国だが、「グローバル共同ガヴァナンス」も変容しつつあり、この意味でウクライナ情勢とその先の展開から目が離せないです。

中国とロシアとの関係に影を落とす皮肉な“新時代”となってしまうのか、ポスト・ウクライナ危機へ向けた国際秩序形成とその先の展開に注視すべき展開であります。

2022年03月02日

「ウクライナ勢を巡る危機」の背後において揺らぐイラン勢の「核合意」 ~カギとなるイスラエル勢の動向とは~

「ウクライナ勢を巡る危機」により、イラン勢と米欧勢による「核合意」にむけての協議復帰が困難になっていると“喧伝”される展開が続いています。これは、イラン勢とロシア勢が友好関係にある為に、今回の「核合意」協議再開に関しても積極的に仲介役を務めてきたロシア勢におけるチャンネルが消滅しつつあるからです。この問題に対して、去る2月19日(ブラッセル時間)にアイルランド勢の・コベニー国防・外相は、ミュンヘン安全保障会議でイランのホセイン・アミラブドラヒアン外相に対し、「合意が可能な瞬間があるが、その瞬間を過ぎると、交渉のコントロール外の理由で合意が遠のくことがある」と述べました(参考)。

他方で、イラン勢の原油生産量が増加しています。中国勢への輸出を増やしているためです。去る1月15日(北京時間)バイデン米大統領は、このことに関して中国勢には制裁を課さないことを決定しました(参考)。これを受けて、北東アジア勢がイラン勢からの原油を確保しようと協議が始まっている中、去る16日(ソウル時間)に韓国勢の外務省はイラン勢の資産凍結の解除を念頭に実務者協議を行ったと発表しました(参考)。

(図表:イラン勢の最高指導者ハメネイ師)

(出典:REUTERS

国際社会は問題の解決と、イラン勢の「核合意」への復帰がイコールであるという図式が完成されている向きがあります。そういった世間が期待する「大団円大円団」に向けて、イラン勢との協議を今年(2022年)から徐々に再開させている米国勢は、去る2021年12月に、サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官をイスラエル勢に訪問させて外交的な調整を事前に行っていました(参考)。このことからも、中東勢において「核武装」する国が出現することに、イスラエル勢が敏感になっていることは疑うべくもなく、その懸念に「配慮すべきだ」と米国勢が考えていると示唆されています。

しかし、考えてみればイラン勢が「核合意」協議に復帰し、核ウラン濃縮を取りやめるということは、イスラエル勢にとって望ましいことではないだろうか。なぜ、「核合意」への復帰を後押ししないでしょう。

それには、この「核合意」について歴史的な動向を含めて多角的に考えなくてはならないでしょう。一般的に、我が国メディアで目にする「核合意」とは去る2015年4月にスイス勢にて協議され、同年7月20日に国連の安全保障理事会にて採択された「包括的共同行動計画(JCPOA)」のことを指しています。この「核合意」が議論される発端となったイラン勢の「核開発疑惑」は去る2002年8月にまで遡ります。反体制派により、暴露本分が発表され、イラン勢に「核の闇市場」があることが明らかになったのであります(参考)。この暴露と国際原子力機関(IAEA)の調査を受けて、去る2005年より国際社会からの制裁が段階的に始まりました。この制裁は、イラン勢の姿勢をより強硬なものへとすることとなり、去る2010年2月には20パーセント濃縮ウランの生成に着手していることが明らかとなりました。こういった経緯から去る2013年から国際原子力機関(IAEA)は各国勢と協力し2015年の「核合意」に至る協議をイラン勢と歩んできたのです(参考)。

去る2016年1月に国際原子力機関(IAEA)がイラン勢の「核合意」の履行を確認したことから、米欧勢は順次イラン勢への制裁の解除を発表しました。しかし、去る2017年にイラン勢がミサイル発射実験をしたとトランプ政権が非難と制裁を実施する事態に陥り、翌2018年5月に米国勢がこの「核合意」から離脱することを発表したました。米国勢の「核合意」からの離脱は、イラン勢への厳しい経済制裁が再開されることを意味し、そういった要因からイラン勢において革命期から燻り続ける「反米感情」が高まっていくこととなりました。そして、2020年1月、現在進行中の「ウクライナ勢を巡る危機」と同様にあわや「核戦争」か、と騒がれた「Seven Days In January(1月の7日間)」が起きました(参考)。

(図表:中東各国・組織の対立の構図)

(出典:Yahoo!ニュース

イラン勢において英雄的な存在であったスレイマニ革命防衛隊司令官の暗殺作戦を米国勢以外で知っていたのは、イスラエル勢のネタニヤフ首相(当時)であったと見られています。興味深いのは、暗殺作戦の数時間前に、公に対し不可解なヒントを提供していたことであります。同氏はギリシャ勢のアテネ訪問に出発する前にテルアビブの滑走路で、「この地域が荒れていること、非常に劇的なことが起きていることは知っている」と、国内の記者団に話しました(参考)。イスラエル勢にとっては、イラン勢は周辺のアラブ諸国であるから敵視しているというだけではないです。日々、報じられるイスラエル勢とパレスチナ勢の問題において、イラン勢やシリア勢はレバノン勢のシーア派イスラム組織「ヒズボラ」を支援してイスラエル勢を攻撃しており、その長い直接的な戦闘を経て両国間には埋めがたい溝があります。実際に、ネタニヤフ首相(当時)がメディアに流出したビデオの中で、同氏がトランプ大統領(当時)に対して「核合意」を破棄するように個人的に説得したと自慢している姿が残されているくらいです(参考)。

その対立構造を理解してなお、その「核合意」の順守をイラン勢に迫らずに、経済制裁の継続という過去の歴史から見れば危険な綱渡りを選択する理由には不十分であります。なにが、イスラエル勢の動機となっているのでしょう。そもそも、この「核合意」が協議された2015年に提示された条件が、締結日から10~15年先までの制約が主であって、特に「ウラン濃縮」関連は、去る2016年1月16日から15年間の2031年までの制約しかないです。ネタニヤフ首相(当時)は、この「核合意」は非常に短期的な制約であり根本的な解決策ではないと批判してきました。さらに、何度もの中断を繰り返してきた段階的な制約の履行がなされているとは認められないので、この状態で去る2015年に策定された「核合意」が根本的な変更がないままに、「復帰」だけが“喧伝”される現状はイスラエル勢にとっては避けたい展開であるのです(参考)。

(図表:「核合意」による主な制約のタイムライン)

(出典:日本原子力研究開発機構)

イラン勢は、現在、イエメン勢における内戦においてはフーシ派反政府勢力に援助を行っており、去る1月17日(アブダビ時間)にドローンによってアラブ首長国連邦勢(UAE)に攻撃を行ったことからも、テルアビブも近いうちに彼らの手の届くところにあるターゲットになる可能性があるということをイスラエル勢は警戒しているのであります(参考)。このような状況下で、イラン勢が「核合意」への復帰を叶え「大団円大円団」であるかのように国際世論が形成された場合に、来る2025年にはイラン勢首脳部に凍結されていた何十億ドルもの資金が戻ってくることになります。さらに、現在の原油価格高騰のトレンドが続く限りイラン勢の輸出産業は好調に推移するでしょう。

イラン勢は長い経済制裁により、国民は疲弊し特に農村部では激しいデモ活動が繰り広げられており(参考)、また「ウクライナ勢を巡る危機」の短期的な解決が見込めない現在の状況では米欧勢がイラン勢との協議を加速させる材料がそろっていました(参考)。今次、「ウクライナ勢を巡る危機」により雲行きが怪しくなってきたが、前出の事情から、去る2021年11月には、イスラエル勢の議会はイラン勢の脅威に備えるため、国防関連への支出を70億シェケル(2500億円ほど)増加させる予算案を可決しました。さらに、イスラエル勢は新たな「アブラハム協定」のパートナーとの安全保障上の結びつきを深める構えであります。ドバイではホロコースト記念展が開かれ、モロッコ勢とは学術交流が進み、バーレーン勢においては医療センターを立ち上げています。ヨルダン勢とエジプト勢との和平協定によって弱体化したとはいえ断ち切れなかったアラブ諸国のイスラエル勢への敵対心という包囲網は、後退しつつあるように見えいます。最大の関心事とされるサウジアラビア勢についても、イスラエル企業は「さまざまな方法、形、形態で」協力しており、事態は前進しているとイスラエル勢は主張しています。イラン勢とイエメン勢において対立するサウジアラビア勢やアラブ首長国連邦勢も、イスラエル勢が展開する包囲網に「反発」はないようであります(参考)。

イラン勢の「核合意」への復帰は、短期的に見れば国際的な原油価格の高騰に対するカンフル剤のような効果を果たす可能性はある。拙稿である「原油先物価格の高騰は全て“演出”?~電気代高騰はどこまで続くのか?~」(参考)でも示した通り、イラン勢の原油の輸出は昨年(2021年)から既に大々的に再開されており、中国勢の件も含めて考えれば「核合意」への復帰が実際の取引市場にインパクトを与えるというよりは、あくまでも「先物取引」への反応として価格が下落する可能性があるということに過ぎないです。その短期的な価格の下落トレンドを優先することが、今後の中東勢における地政学リスクを急激に高める可能性を見落としていないでしょう。我々は、今回の「ウクライナ勢を巡る危機」の動向を後追いで一喜一憂するのではなく、こういった見通せる紛争リスクに対し、今こそより慎重になるべきです。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
横田 杏那 記す


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