コロナ後の人生

2022年07月19日

「英国勢が歩む“宇宙大国”への道~新たな制度とイノヴェーションが映す未来~」

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(出典:UK Space Agency

 宇宙・航空分野にまつわる技術とは、現代科学における最新技術の粋を集めたものであります。それゆえに、こうした技術は、「スピンオフ(民生利用)」につながる可能性を持つ分野としても注目されています。微少重力、高温度差、閉鎖性、放射線等の耐極限環境や軽量化要求、電力制限、高信頼性、有人支援といった「宇宙航空環境の特殊性」がある故に、この問題に挑戦するための先進的な技術の創出や、既存技術のインテグレーションがスピンオフに貢献しうると見られています。例えば、ロケット先端部の断熱材技術は建築などで用いられる塗布式断熱材に応用されて地球温暖化防止への効果が期待されているほか、国際宇宙ステーションにおけるたんぱく質結晶生成機器、は地上・宇宙両用の結晶実験機器としても活用されて新薬創出への貢献が期待されています(参考)。

(図表:宇宙航空技術のスピンオフ事例)

(出典:内閣府

 我が国において宇宙産業に関連する省庁は、現状について、「我が国では国内官需が大部分を占め、事業規模についても先行する海外企業に比べて必ずしも十分な国際競争力を有していない」という点や、一方の米欧勢では「新たなヴェンチャー企業が参入し、ヴェンチャー企業ならではの迅速な経営判断や短い開発サイクル、コスト競争力などを武器に、公的機関からの技術移転等の支援も受けながら急成長しており、新たなプレイヤーの参入により世界的に国際競争は激化しつつある」と分析を示しています(参考)。

こうした国際競争の中で注目されつつあるのが英国勢の動向であります。英国勢は欧州勢(EU)からの離脱によって、欧州勢(EU)における宇宙技術スピンオフ促進のためのインキュベータ制度にあたる欧州宇宙機関(ESA)のプログラム活用が制限されることになりました。それゆえに、去る2018年に1986年に設定された「宇宙活動法(Outer Space Act)」が宇宙物体の打上げ・運用及び宇宙空間における活動について規定していたが、これが改訂されて設けられた「宇宙産業法(Space Industry Act 2018)」が今次、英国勢の宇宙航空技術分野における国際競争を支えています。

去る2017年、英国議会はその開会に伴い各法案における目的や背景を示した文書である“The Queen’s Speech and Associated Background Briefing, On The Occasion of the Opening of Parliament on Wednesday 21 JUNE 2017.”を発表し、この中で「宇宙産業法案」について「英国勢が世界のリーダーであり続けるための法案を提出する」と記した上で、「英国勢を商業宇宙飛行にとって欧州勢で最も魅力的な場所にすることで、経済、ビジネス、工学、科学を後押しすること」が目的であるとしている。そして、具体的なメリットについては、以下のように示しています(参考):

  • 雇用を創出し、ビジネス、工学、科学の分野で英国勢を最先端にすることによって、より強い経済を可能にする産業戦略を支援するために商業宇宙飛行を活用する
  • 過去10年間、毎年8パーセントの成長率で推移してきた英国勢の宇宙分野における継続的な成長を確保し、来る2030年までに世界の宇宙経済における10パーセントのシェアを確保する
  • 英国勢からの打ち上げを行うことによって英国勢の科学者が微小重力環境に容易にアクセスできるようになり、英国勢の科学界が微小重力環境で 最先端の研究を行うための新たな機会を創出する

宇宙を巡る政策課題を実際に推進させていくのは、昨年(2021年)定められた「宇宙産業規制2021」であり、これは英国勢で実施される宇宙飛行という任務に対し、一定の規制枠組みを設けることによって「宇宙産業法」を実行しようとするものであります。例えば、ロケットが離発着する施設であるスペース・ポート(宇宙港)と衛星の打上げなどの宇宙飛行活動がライセンス制となりました。現状では欧州勢には宇宙港はなく、通常、欧州勢に拠点を置く企業がロケットを打ち上げるためには、ロシア勢または米国勢の宇宙港を使用しなければならないです。

 

しかし、この英国勢の新しい規制の導入により、英国勢で最初の宇宙港が早ければ今年(2022年)中に打ち上げを実現すると期待されています。これにより、宇宙の軌道上に打ち上げを行うのは欧州勢の中で英国勢が初めてとなります。実際に、スコットランド勢では、シェトランド、サザーランドなど、いくつかの宇宙港プロジェクトが進行中であり、地域社会における新たな雇用機会の創出に加えて、新規制の導入によって英国勢がビジネスに対してオープンであることを実証し、宇宙部門における新たな商業的機会を利用するグローバル企業にとって魅力的な環境になると期待されています。また、自国から宇宙飛行や衛星を打ち上げることによって、気候変動と気象パターンをより詳細に監視し、衛星ナビゲーション・システムにおけるより改善されたデータを収集できる機会を提供することにもつながると見られています(参考)。

(図表:英国勢における宇宙関連計画)

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(出典:UK Space Agency blog

 こうした状況の下、英国勢においてはいくつかの宇宙関連スタートアップ企業が登場しています。ウェールズ勢の「スペース・フォージ」社は宇宙の軌道上で微小重力と宇宙の真空を利用して、地球上では作ることのできない超高効率半導体を創出することを目指している他(参考)、英国勢を拠点とする宇宙スタートアップの「OneWeb」社は、昨年(2021年)からインド勢の企業「Bharti Global」から5億ドルの投資を受け、商業衛星の打ち上げ計画を進めています(参考)。

こうして英国勢は宇宙国家になりたいという「技術と願望」を育みつつある一方、順調にその歩みを進めていくことができるのか懸念材料も存在します。例えば、国際競争に打ち勝つことができるのかという点では、欧州勢(EU)から離脱した英国勢は厳しい立場に置かれることも予想されます。英系メディア「ガーディアン」は、英国勢の科学者らの多くが、いったんは承認を受けていた欧州勢の助成金プログラムである「ホライズン・ヨーロッパ・プログラム」から排除されることになったと伝え、研究プロジェクトにおける役割をオランダ勢にやむなく明け渡した事例もあることにも触れています(参考)。また、スイス勢に本拠がある欧州合同原子核研究所(CERN)も、欧州勢における研究開発でリードを続ける存在であり、質量の起源となる新素粒子を発見したことでも今般、成果を収めています(参考)。

我が国における動向も含め、科学技術分野の発展を後押しすべく「宇宙大国」を目指す各国勢の思惑が順調に推移するのか、今後より一層注目が集まることは間違いないでしょう。







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