コロナ後の人生

2022年04月19日

経済活動と環境保護の両立という模索 ~「グリーンGDP」の可能性と真の狙いとは~

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気候変動問題が深刻化する中、経済活動と環境保護をどう両立させるのかは長年議論されてきたテーマであります。経済活動の状態を示す指標として広く用いられているのがGDP(国内総生産:Gross Domestic Product)であります。大恐慌と第二次世界大戦によってもたらされた経済的な混乱が生み出したGDPは、約80年の歴史を有し、今次ほぼ全ての国連加盟国にて用いられています。

(図表:経済活動と環境保護の両立を目指す太陽光発電)

(出典:OECD

しかしながら、広く用いられているGDPという指標の算出基準については、様々な形で検証の余地があるとの声があるのも事実であります。そうした声はGDPが誕生した時代における論争にまでさかのぼります。GDPを開発した担当者らは当初、GDPを単なる生産量を示す数値ではなく、国民の経済的な豊かさを把握しうる指標としたい考えを持っていたが、政府側は財政に関わる政策を客観的に進めるためのデータを作成することを念頭に置いていました。結果的には、戦争を見据え、政府側が意図していた方針が採用されました(参考)。つまり、GDPでは価値観としての国民の豊かさや幸福度を表現することができないことが早くから認識されてきたのであり、中でも、経済活動において環境を破壊する行為が発生しても捉えることができない点は長年にわたって議論の的でした。

つまり、GDPのみに依拠した基準では経済活動に環境保護という概念を包含することが難しいです。こうした状況下でも、去る1980年代に採択された「モントリオール議定書」において、国際社会はオゾン層保護に向けた取り組みに大きく踏み出すなど、環境保護へのアプローチを模索し続けてきました。一方で、我が国は経済成長期の急速な工業化がもたらした公害問題の解決などから、経済活動の中に環境という概念を含めることに比較的早くから成功してきたと見られています。その理由の一つとして挙げられるのは、経済協力開発機構(OECD)によって行われてきた「環境保全成果レヴュー」における好評価であります。去る1991年のOECD環境大臣会合の合意に基づき開始されたこのプロジェクトは、被審査国に法的な義務を課すものではなく、当該国による環境政策の進展を支援することが目的とされている中、OECD加盟国が相互に各国勢の環境保全に関する取組状況等を体系的に審査し、必要な勧告を行うとされています(参考)。我が国に対して去る2002年に行われた評価には以下のように示されています:

  • 1990年代において、日本の環境法制は大いに進展した。全体として、環境政策の実施に当たり複数の手法を組み合わせることは、極めて効果的である。規制は厳格であり、適切に施行され、強力な監視体制に支えられている
  • 従来のタイプとは異なる大気汚染(例えばダイオキシン類やベンゼン)に対する取組に重要な進展がみられ、また、廃棄物処理についても近年の関連法制の整備により一層の改善が期待される
  • 厳しい基準の設定及び新たな環境技術や処理方法の研究開発に対する財政支援は、積極的な技術進歩の効果をもたらしており、このことが厳しい規制の適時適切な実施に役立っている

(図表:OECDによる「環境保全成果レヴュー」)



(出典:環境省

GDPそのものに環境的側面を含める試みも行われてきました。去る1993年の国連による統計手法の改正に関する勧告を受けて登場したのが、環境経済勘定(System of Environmental-Economic Accounting:SEEA)であり、SNA(System of National Accounts:国民経済計算)におけるサテライト勘定として導入することで、環境が経済に与える影響を統計的に捉えることを目指しました。SEEAは国連によりハンドブック的存在として策定された後、いくつかの改訂を経て国連から国際統計基準として発表されたのが、去る2012年の環境経済勘定中心的枠組(SEEA Central Framework:SEEA-CF)であります(参考)。昨年(2021年)12月には、我が国が脱炭素化を踏まえた新たな経済指標「グリーンGDP」の導入に向けた検討を開始しているとの情報が伝えられました(参考)。

このように経済活動と環境保護の両立を巡って長きにわたり議論が積み重ねられてきたが、「グリーンGDP」に関して異議を唱える声も存在してきました。例えば、一部の国では、環境の枯渇と劣化を評価するために使用される手法が実験的なもので一貫性がないことや、「グリーンGDP」が天然資源の枯渇のコストをGDPから差し引くことだけに焦点を当てている結果として、従来のGDPよりも必然的に低い数字となる点が挙げられてきました(参考)。また、気候変動問題で欧州勢にとって有利な分野へと議論を誘導するため、「グリーンGDP」を用いてGDPランキングを改変していくのではないかとの疑いもある点、さらに各国勢においてGDPを算出する統計自体の正確性も懸念されています。

今後、経済と環境の両立を占う意味で、環境への配慮という条件の下でどのようにグローバル経済が成長を実現できるのか、その動向により一層注目していくべきではないでしょう。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
倉持 正胤 記す







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