2021年10月19日

「ニクソン・ショック」から読み解く「バイデン・ショック」の行方:日本は再び敗戦の日を味わうのか。

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

2021年10月5日(米東部時間)、バイデン米大統領は、中国の習近平国家主席との協議で台湾に関する合意の順守で一致したとホワイトハウスで記者団に明らかにしました(参考)。さらに翌6日(チューリヒ時間)には、スイスでサリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と中国の楊潔篪・中国共産党政治局員が6日、会談し、年内にオンライン形式で初の首脳会談を行うことを合意しました(参考)。表向き、米中対立が“喧伝”される中で、その実、両国は意見の相違を適切にコントロールしているということがみてとれます。

2012年、米国務省にて昼食会に参加した副大統領時代のバイデン氏(右)と習近平国家主席(中央)


出典:Wikipedia

国家安全保障問題担当大統領補佐官を派遣し、米中が我が国の頭上で手を携えるという構図に接し、想起されるのが1971年の「ニクソン・ショック」です。
「ニクソン・ショック」とは、1971年にニクソン米大統領が電撃的に発表した、既存の世界秩序を変革する2つの大きな方針転換のことを指します。

1つ目のショックは、1971年7月15日に発表されたニクソン大統領の訪中宣言です。背景には、米ソ冷戦下において、ヴェトナム戦争における「名誉ある撤退」を模索し始めた米国が、1960年代の中ソ対立にその解決の糸口を見出したことがあります。すなわち、中国敵視政策を改め米中接近を図ることで、東側の亀裂に食い込み、以て冷戦枠組みの再編成を企図したのです。

そして、同宣言前の7月9日には、ニクソン外交を取り仕切っていた国家安全保障問題担当大統領補佐官ヘンリー・キッシンジャーが北京入りして、周恩来首相と会談、両国関係の正常化を模索し、意見交換をするために、大統領自身が中国を訪問するとの合意を取り付けたのです。もっともさらに裏の背景としては、キッシンジャーが交流の深かったロックフェラー家の3代目当主デイヴィッド・ロックフェラーがチェース・マンハッタン銀行の中国進出を画策していたという事情もあります。

2019年11月に訪中して王毅外交部長(左)と握手を交わすなどいまだ健在のキッシンジャー氏(左)


出典:The Guardian

その後、ニクソンは予定通り、1972年2月21日に訪中し、米大統領として初めて中国首脳の毛沢東と握手をし、20年間にわたる中国敵視政策を転換させたのです。こうした米中の動きに一番驚いたのは我が国でした。ニクソンの訪中宣言も日本政府(佐藤栄作内閣)に知らされたのはわずか数十分前でした。また事前にこうした情報をキャッチできなかったことは政権批判へと転じ、佐藤内閣は1972年7月に退陣しました。次いで総理に就任した田中角栄は、同年9月、日本外交の遅れを取り戻すがごとく、首相自ら訪中し、日中国交回復を急ぐこととなりました。

今次の「バイデン・ショック」とも呼べる前述の報道も、我が国では首相交代という「ニクソン・ショック」と同じ状況下で行われているところ、その後につづく展開もフラクタルに再現されないかとの懸念が改めて浮上するわけです。

その後につづく展開、すなわち2つ目のショックとは、ニクソンの訪中宣言からわずか1か月後の1971年8月15日に発表された、金ドル兌換停止の宣言です。冷戦による軍事費の増大、さらに復興を成し遂げた西欧諸国や日本の経済的台頭を背景に、1960年代には米国経済がその優位性を失い、もはや金によって裏打ちされた米ドルが世界経済を支えるというブレトン・ウッズ体制を維持することが不可能になったためです。

金ドル兌換停止を発表するニクソン


出典:NIKKEI Asia

「8月15日」は我が国にとって1945年の敗戦の日であるが、この1971年の8月15日も、ある意味では「2度目の敗戦」ともいえる出来事でした。
なぜならば、1949年にドッジ・ラインによって定められた1ドル360円という「超円安」の単一為替レートによって支えられていた我が国の輸出産業は大きく動揺し、高度経済成長の時代から低成長時代へと突入していったためです。

金ドル兌換停止は、当然世界の金融秩序にも衝撃を与えました。1970年代、資本主義経済では不況と「狂乱物価」ともいわれるインフレが同時に進むスタグフレーションが続くこととなったため、各国はケインズ主義的政策の転換を迫られ、マネタリズムが台頭することとなりました。

このように、「ニクソン・ショック」は、米中和解という国際政治の再編とその後の金融・経済秩序の転換という2つのショックが世界を襲ったことを考えると、今次の「バイデン・ショック」についても、来たるべき2つ目のショックとしての金融秩序の転換が、いついかなるタイミングで発生するのかが問題となります。

短期的には、現下のコンベンショナル・マーケットの動きに相対して浮き沈みを繰り返す仮想通貨へのキャピタル・フライトや、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の動向も気になるが、より俯瞰的、長期的には、先進主要国を中心に起こっている人口減少とそれに伴う消費の停滞による「デフレ型」経済の到来とみるべきではないでしょうか。

消費者物価の見通し


出典:NIKKEI Asia

岸田新総理は、内閣発足の翌日、バイデン米大統領と電話会談し、「フミオ」「ジョー」と呼び合う関係を確認し、「日米同盟をさらに高みに引き上げる」と強調したが、佐藤栄作内閣が経験した米中「頭越し外交」は、こういった「友人」や「信頼」といった感情レベルでの外交からの脱却が必要なことを示唆しています。
米中が動いている今だからこそ、マキャベリ的で冷徹な外交が我が国には求められているのかもしれません。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)

元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。







© 2021 コロナ後の人生。| 気づきに満ちた世界と私. All rights reserved.