2021年03月23日

日本マーケットを知りたければ中東情勢に注目!遠い存在の中東。しかし、日本は中東の存在無くして、成り立たない国でもあるのです。知られざる【日本と中東関係】をご紹介。

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「日本人とアラブ人が来たらそのマーケットは終わりだ」

マーケットの猛者らによる格言の1つです。諸外国に比べとかく意思決定が遅く結局当事国における実情を考慮せずに投資する日本人、またオイル・ダラーで潤っているアラブ人が投資する金融商品はもはやEXITしなければならない段階にあるという意味です。
これは逆に言うと、ある意味で無知蒙昧であったり余裕があったりする彼らに対し、欧米人らが利益確定ないし“損切り”のために投資を薦めるということを意味します。こういった事情があるために、意外にも日本マーケットにおけるリスク・オン/オフ事情と中東情勢はシンクロすることが意外に多いのです。

そもそも日本の中東に対する原油依存度は未だに高いため、我々は中東情勢をシビアかつ冷徹に見つめなければならないはずです。
しかし、物理的に距離が遠く、東(南)アジア諸国や欧米諸国に比べれば日本への浸透度が低く、そもそも国が多く複雑な歴史背景を持つ中東地域への関心は低いのが残念ながら実態なのです。
今回はそのような中東情勢に注目して紹介します。
まずは日本のマーケットと中東情勢がリンクしていることを示す過去の事例を簡単に説明しましょう。次に中東情勢の現在の情勢を描き出し、最後に今後の中東情勢と日本へのインパクトを考えていきたいと思います。

なぜ中東情勢と日本なのか?
2017年4月6日(ダマスカス時間)、シリア空軍基地に米海軍駆逐艦ポーターおよびロスからトマホーク巡航ミサイル59発が降り注ぎました。その理由として、トランプ大統領は「シリアが禁止されている化学兵器を使用し、化学兵器禁止条約に違反し、国連安全保障理事会の要請を無視したことに議論の余地はない」と化学兵器利用を掲げています。

(図表1 トマホーク・ミサイルによる攻撃当時のシリア情勢)

(出典:ロイター)

シリア情勢を振り返るときに必ずセットとして考えなければならないのが実は北朝鮮情勢です。
国連安保理の北朝鮮制裁委員会・専門家パネルにおいてかつて委員を務めた古川勝久は著書「北朝鮮 核の資金源 『国連捜査』秘録」第126頁においてこのように述べています:

“2011年3月から始まったシリア内戦において、アサド政権の兵器製造・開発に重要な役割を担っていたのが北朝鮮である。
地中海に面したこの国連加盟国(※引用者註:同書はこの国の名称を明言していない)では、これまで複数回にわたって制裁違反の多様な兵器関連物資が押収されていた。2009年11月にはシリア向けコンテナの中から、化学防護マスクをはじめ、大量の化学防護服や化学剤検知器などを押収していた”

他方でイラン情勢もまた、北朝鮮情勢とセットなのです。2017年5月2日(テヘラン時間)にイラン海軍はホルムズ海峡においてミサイル発射実験を行いましたが、
この実験でミサイルを発射した潜水艦が北朝鮮籍の潜水艦に類似しており、制裁下にあるにも拘らずイランと北朝鮮の武器開発協力関係が依然として継続しているとして米国防総省(ペンタゴン)が警告しているのです。
シリア北朝鮮関係は今でも緊密です。例えば毎年2月8日は建軍節(朝鮮人民軍創建日)であり北朝鮮にとって重要な祝日の一つですが、これに対し祝電を発した一人がアサド・シリア大統領なのです
また2017年8月7日(テヘラン時間)には金永南・最高人民会議常任委員会委員長がイランを訪れ、ロウハニ大統領と面会しています。直近では去る14日(ダマスカス時間)にイスラエル空軍がシリアのマシャフという都市を空爆した際、イラン人やシリア人に加え、ベラルーシ人と北朝鮮人エンジニアが死傷した旨報じされており、未だにシリアと北朝鮮の関係は密接なのです。

北朝鮮の核ミサイル実験が日経平均に与えた影響は図表2で見るまでもなく大きかったわけですが、
中東情勢、とくにシリア情勢ないしイラン情勢は北朝鮮情勢を通じて日本マーケットと関係があるということをまずは覚えておくべきでしょう。

(図表2 2017年における日経平均株価の推移)

(出典:モーニングスター)

第2に考えるべきなのがイラン情勢です。
日本とイランの関係は深く、いわゆる日章丸事件以来、日本とイランの関係は非常に深くなりました。
旧三菱銀行とイランの関係が非常に緊密であったことも大変重要です(逆に言えば2018年8月に三菱UFJ銀行がイランとの取引を全面停止してしまったのは同国との関係を閉ざすことになったということでもあります)。
第3に考えるべきなのがイスラエル情勢です。2019年4月9日(テル・アビブ時間)に実施された総選挙の結果、イスラエルではネタニヤフ首相が所属する「リクード」が第1党の地位を維持し、同首相の続投が確実視されています。このイスラエルが日本にますます浸透していることをあなたは認識しているでしょうか。
2014年以来、日本の外務省とイスラエル外務省はサイバー協議を何度も開催しておりそれを直接的なきっかけとしてイスラエルが日本へと続々と進出しています。例えば公益社団法人・日本イスラエル親善協会がイスラエル発のブロックチェーン技術を日本に向けて盛んに発信しているのです。

他方でイスラエルは安全保障面で問題が生じているのは周知の事実です。
国際的にはシリア領とされていますがイスラエルが実効支配しているゴラン高原にはイラン軍とロシア軍が依然として展開しています。
ユダヤ人が世界的に散っていることは良く知られていますが、逆に世界で活躍しているユダヤ人(イスラエル人)も少なくないのです。したがって外国に出るということに対する抵抗感は諸国民に比べれば低いと言えます。イスラエル情勢が緊迫すればするほど、イスラエルはディアスポラ(棄民)を行うことも在り得ます。そうした中での棄民先の一つとして日本を選択する可能性も充分在るというわけです。逆に言えばそのために現時点で積極的に日本において技術提供を行っているとも考えられるわけなのです。

急激に動き始めた中東情勢 ~リビアとエジプトが持つインパクト~
突如として変化が出たのがリビア情勢です。去る2011年のリビア動乱以来、依然として不安定な状況にあるリビアですが、昨年から民主化選挙を実施することが国際会合上で議論されてきました。つい最近では2019年3月末に同選挙の開催が報道されたばかりでした。
それがハリファ・ハフタル陸軍元帥による突如の挙兵により、リビアは再び混乱に陥りました。
同元帥は1990年代に米中央情報局(CIA)からの資金援助を受けていたことが知られており、今回の挙兵もそれが関係している可能性が度々指摘されています。そもそもリビアは良質な原油を埋蔵している国家であり、1960年代には世界でも有数の原油生産国でした。

(図表3 1960年代からの原油生産高推移)

(出典:GEOExPro)

リビア情勢が原油マーケットに与える影響も決して小さくはないのですが、
それ以上に憂慮すべきなのが、エジプトへの影響です。
エジプトはリビアの隣国ですが、シシ大統領はハフタル元帥への支援を表明しています。元来、元帥とは友好的な関係を築いてきたのがシシ大統領でした。
そのエジプトは中東でも有数の軍事大国であることが知られています。
またエジプトは昔から食糧を輸入に依存しており、特に小麦は歴史的にロシア(ソ連)から輸入してきた経緯があります。
このエジプトでシシ大統領の任期延長を巡る国民投票が実施され、これが可決されると来る2030年まで同大統領は大統領職に居ることが出来るようになります。シシ大統領はエジプト軍軍事情報庁長官やエジプト軍最高評議会議長を歴任してきた人物であり、他方で米英両国に留学した経験のある親米英的な人物でもあります。それとは対照的にエジプトは米国が主導する中東戦略同盟(Middle East Strategic Alliance)への参加は拒否したのです。

かつてのムバラク大統領(当時)時代、エジプトは軍事大国であることもあり、中東において不気味な存在感を有してきました。このエジプトがロシアおよび米英との関係性を考慮し、意図的にサボタージュを行ったとしたらどうなるのでしょうか。
これで問題となるのが、イスラエル情勢なのです。
ゴラン高原において対イスラエル姿勢が鮮明化していることはすでに述べたとおりです。イランの友好国であるシリアもイスラエルとは当然敵対国でもあります。そうした中でイスラエルの隣国ではあるが共同でシナイ半島に存在するイスラム国(IS)掃討を行ってきたエジプトが沈黙を貫いた場合、イスラエルは南西への退路をふさがれることとなるという訳なのです。
イスラエルおよびエジプトはさらに別の面で一蓮托生であることはあまり知られていません。それは天然ガスです。エジプトイスラエルも近年、領海内で巨大なガス田が発見されているのです。そもそもシリア内戦が生じた理由の一つはシリアを通過する天然ガス・パイプラインの敷設にあったと言われています。

(図表4 イラン=イラク=シリア・パイプライン構想)

(出典:Global Research)

日本は原油輸入国であるのと同時に天然ガス輸入国でもあります。
すなわちこれもまた日本と中東を結ぶ「パイプライン」なのです。

~中東情勢の何に注目すべきか~
ここまでで日本ではあまり知られることのない日本と中東の関係性について述べてきました。
では直近、中東情勢の何に注目すべきなのでしょうか?

まず憂慮したいのがイラン関係です。
米国によるイラン産原油輸入の制裁適用除外が期限を迎え、イラン産原油への依存度が他国よりも高い韓国は当時、トランプ米政権に対して同措置の延長を要請していましたが、米国の反応は渋いものでした。
当時は同制裁を再強化する可能性が米国で“喧伝”されていました。また去る2015年の核合意には参加していないものの、同協議を行う会場を提供し、合意直後に欧州連合(EU)加盟国の中では真っ先にイランを訪問したオーストリアが、米国によるイラン革命防衛隊のテロリスト認定を大いに憂慮しているのです。
イランが火種になる可能性も低くなく、これが日本に与えるインパクトも決して小さくはないのです。

第2に注目したいのが、ここで新たに触れることとなるクルド人勢力です。
クルド人とは独自の国家を持たない中では最も人口の多い民族であり、トルコからシリア、さらにはイラクやイランなど非常に広範囲に分布しています。それが2017年にイラク北部で独立を巡る投票を行なったのです。
クルド人はそもそもトルコでは反政府勢力として永年対立してきた歴史を持ってきたのですが、
シリア内戦やイスラム国(IS)の興隆の中で米軍の支援を受けることでトルコからの影響を避けつつ、ISと最前線で戦ってきたのです。それが、米軍からの支援を受けることでクルド人が保有する武器が問題になっていた中で、ここにきてやおらクルド人勢力が責められる展開となっているのです。
他方でトルコ当局が突如として米系巨大銀行であるJPモルガンに対し、為替操作の疑惑で捜査に入っているのです。
ここで注意しておきたいのが、ちょうどクルディスタンを通りトルコへ抜けるパイプラインが敷設されているという事実です。
またクルディスタンはイラクの中でも有数の油田を確保しており、クルド問題がここにきて米国が仲立ちをする形で混乱の最中にあるということは、原油および天然ガス・マーケットを混乱させる一因になっているというわけなのです。

最後に注意しておきたいのがサウジアラビアです。
サウジアラビアとイランがイエメンにおいていわゆる代理戦争を繰り広げてきましたが、停戦へと至りつつあります。
それがスーダンの内戦へ資金援助しているとして突如批判されることとなったのです。またいわゆるカショギ事件を巡って結局サウジアラビアが焦点となったが、
それに続き今度はイエメンでの内戦においてサウジアラビアが米国製の武器を使用していたとして再び米サウジ関係が荒れつつあるのです。日本の原油輸入先で最も大きいのがサウジアラビアであることを想起すればサウジアラビアの情勢は決して無視できないものです。

グローバル化を一方で叫びつつも、
こうした中東情勢には目を瞑るという姿勢は最早通らない状況となっており、無視をしてもならないのです。







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