2021年03月23日

北朝鮮が“仮想通貨大国”となる日は来るのか。ベール包まれた北朝鮮で暗躍する 「スペイン」という隠れたサポーター

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2018年1月26日、日本で衝撃的な事件が生じました。大手仮想通貨取引所「コインチェック」から約580億円相当(当時)の仮想通貨NEMが不正流出したことです。これをきっかけに、ビットコインを中心としたメジャーな仮想通貨における、いわゆる仮想通貨バブルとでも言うべき高騰(円安/仮想通貨高)は鎮まってしまいました。

こうした仮想通貨マーケットにおける流出事件において度々俎上に載せられるのが「北朝鮮」です。
たとえば、国際連合(UN)安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会に属する専門家パネルが公開した報告書は、北朝鮮がサイバー攻撃を用いて仮想通貨交換業者から少なくとも5億7,100万ドル(約635億円)相当の仮想通貨を2017年1月から2018年9月の間で窃取したとまとめているのです。その中には上述した「コインチェック」の流出事件も含むといいます。
こうした各種報道に触れる度に疑問に感じるのが、そもそも北朝鮮がそうした技術を有しているのか、
またそうした詐取を行う人材を有しているのかという点です。これに対しては、2018年に北朝鮮にサイバー攻撃専門部隊が存在する旨、日本メディアがこぞって報道してきたことから、恐らくそうした技術があっても不自然ではないのでしょう。
また米国のさまざまな公的部門(米国土安全保障省や連邦捜査局(FBI))が北朝鮮のハッカー集団の存在を公言してきたこともあるので、そういった人材も存在すると思われます。

そうなると、私には更なる疑問が浮かびます。
それは、詐取などという高リスクでしかない犯罪に手を染めるくらいならば、北朝鮮が自前で仮想通貨を作成するということはないのだろうかというものです。無論、ブロックチェーンや仮想通貨を構築するのとハッキングは技術的なレベルに差があり、北朝鮮が技術的にそれに携われないという可能性はあり得ます。
しかし、ここで議論するように、どうも北朝鮮が仮想通貨を作成する可能性が浮上しつつあるのです。とはいえ、たとえ北朝鮮が技術を有しているとしても、現在の仮想通貨にはマイニング・プロセスが必要であり、それは多量の電力を必要とするため、北朝鮮が単独でそれを導入することは困難な状況でもあります。また技術面で誰かが支援しているという可能性も充分あり得えます。だとすれば協力者はいるのでしょうか?それは誰なのでしょうか?

『北朝鮮が仮想通貨を“導入”する背景』
そもそも北朝鮮が仮想通貨を詐取する背景は何でしょうか。
それは国連安保理や米国、欧州連合(EU)らによる経済制裁です。
特に米国の経済制裁が熾烈であることは、同じく経済制裁を受けるものの、友好国も多く北朝鮮よりは制裁措置が緩いイランですら苦境下にあることからも明らかです。
そのため、各国金融当局による規制が緩く、利用者のトレースがしにくい仮想通貨の利用に流れているというわけです。
「その仮想通貨を得ようにも交換の元手となる外貨がない、また何かの販売に対する対価として仮想通貨を得ようにも販売物(輸出物)が無いか経済制裁で輸出できない、だから詐取をするのだ」というストーリーは一つ納得の行く話ではないでしょうか。
ただし、詐取はあくまでも犯罪でありリスクは高いと言えます。だからこそ自前で仮想通貨の発行をという選択肢を北朝鮮が考えたとしても至極当然と言えるのではないでしょうか。

では北朝鮮が仮想通貨を発行すると仮定したとき、技術面や人材面とは別に考えるべきなのが、果たしてICOに反応する人々が存在するのかどうか、つまり誰が投資するのかということです。
そもそも北朝鮮と金融マーケットの関係は戦後1950年代の債券発行から始まり、直近では1970年代に遡ります。北朝鮮は額面価値で10億ドル規模のシンジケート・ローンを受けてきたが、1980年になると日本を除く諸国に対する債務について“デフォルト(国家債務不履行)”を引き起こしました。それが1997年になるとフランスの銀行であるBNP(当時・現BNPパリバ)が譲渡性証券にリアレンジしマーケットにて販売しているのです。最直近では2003年には北朝鮮国債を発行しており、それ以後は起債がない中で、2013年まではこうした北朝鮮が起債者である債券が取引されてきたことが知られています。それに2018年には、北朝鮮情勢が融和化する可能性があったために、香港のヘッジファンドが北朝鮮債集めに躍起になったことがあったのです。主要債券が軒並み割高になっている今、北朝鮮が金融債務を求めたとして、需要が皆無であるとは言い難いのです。

こうした北朝鮮における仮想通貨を巡る動向に新たな展開が生じた。
それは、北朝鮮が仮想通貨に関するカンファレンス「平壌ブロックチェーン・仮想通貨カンファレンス(Pyongyang Blockchain and Cryptocurrency Conference)」を催すのというのです。実は2018年9月の段階で、香港Asia Timesが北朝鮮による自前の仮想通貨作成の可能性に言及してきた経緯が在ります。同カンファレンスのプログラムは7日間に渡るが、そのうち半分は関係箇所(専門大学など)などの見学で残りがセミナーであるといいます。

(図表 「平壌ブロックチェーン・仮想通貨カンファレンス」の会場)

(出典:朝鮮民主主義人民共和国公式Webサイト)

 

このカンファレンスで興味深い点が3つあります。まず参加資格ですが、このような記述があります:

“Any interested person except passports from: South Korea, Japan and Israel. Journalists are not allowed to attend”

日本や韓国は隣国であり、さまざまな(外交)問題を有するためにその参加を阻害するのはある意味自然ではあるのですが、イスラエルの参加を認めない点が非常に興味深いとは思いませんでしょうか。
イスラエルがブロックチェーン領域で先進的なのは広く知られている話であり、公益社団法人日本イスラエル親善協会がわざわざ「ブロックチェーン」で特集ページを作成していることが示すように日本へも浸透しつつあります。韓国もまた、カカオがイスラエル系ブロックチェーン企業へ投資したり、その投資先が韓国に支社を設立したりと影響力を行使しつつあるのです。

他方で、イスラエルと北朝鮮の関係性は非常に悪い事をご存じでしょうか。
過去の中東情勢において、北朝鮮はアラブ側に加担してきました。たとえばイランやシリア、エジプトと北朝鮮の関係は有名であり、武器や兵員を提供してきた経緯があります。両者の関係が決定的に悪化したのは、2018年3月にイスラエル政府が正式にその活動を認めたオーチャード作戦がきっかけでした。同作戦はシリアにあったとされる原子炉をイスラエル空軍が爆撃したものでしたが、
その原子炉の建造に北朝鮮が加担しており、10名の北朝鮮技師が死亡したのだといいます。それ以後、北朝鮮当局はイスラエル人の入国を禁止しているのです。2019年2月7日にも北朝鮮からイスラエルに向けてのサイバー攻撃があった旨、報道されています
これを踏まえるとイスラエルが関与している蓋然性が低いと評価できそうです。

ただし、そうではない可能性が皆無ではないということも留意すべきなのです。まず、必ずしもユダヤ人がイスラエル国籍を持つとは限らないという点に注目です。
ディアスポラを経験するユダヤ人は世界中に散っており、その中には同じ“ユダヤ”ということで国家とは別につながっていることは良く知られています。上述したカンファレンスの参加基準においても、「イスラエル国籍」のものの参加を認めないとあります。
したがって「イスラエル人」ではないユダヤ人が北朝鮮に入国することは字面通りの解釈では可能であるということになるのです。
他方で、非常に興味深いのが、超正統派ラビが北朝鮮に2018年末に堂々と入国し、その模様をイスラエル・メディアにて報告しているのです。現在、イスラエルが北朝鮮へのブロックチェーン・マーケット参画している明確な証拠があるわけではありません。しかし、東アジア・マーケットに喰い込むイスラエルが北朝鮮を無視するとは思えないというのが私の見解です。

『北朝鮮による仮想通貨カンファレンスで注目すべきもう2つの点』
では2つ目の注目すべき点とは何でしょうか。
それは米国人の参加を歓迎しているという点です。同カンファレンスのFAQにこのような記述が真っ先に挙がっています:

“* Are USA passports allowed to apply?
– Yes, you are welcome to apply.”

日本や韓国がこのカンファレンスから排除されている一方で、米国は“歓迎”されているのです。
したがって、北朝鮮におけるブロックチェーンや仮想通貨の導入に当たっては米国が関与している可能性も僅かに在るというわけなのです。
またこのような観点からも、1月の米朝首脳会談が失敗だったと述べるのは早計であると言えるのであり、
米朝関係は決して簡単なものでは無いことは明らかです。

最後に注目したいのが、このカンファレンスのオーガナイザーです。再度FAQを参照してみましょう:

“* Who is organizing this?
– The organizers of the conference are, in the DPRK side, Mr. Alejandro Cao de Benos, Special Delegate for the Committee for Cultural Relations and President of the Korean Friendship Association (KFA), and in the technical side Mr. Chris Emms, Blockchain and Crypto expert” (註:下線は引用者による)

まずカンファレンスのオーガナイザーとされるアレハンドロ・カオ・デ・ベノスとは誰でしょうか。
同人はスペイン貴族出身の北朝鮮シンパです。2000年に朝鮮親善協会(同協会は北朝鮮当局に承認されているという)を設立しており、2016年にはスペインのタラゴナという都市に平壌バーを開店しています。しかし、同年、武器密売に関わったとして同人はスペイン当局に逮捕されています(もっともこの武器が北朝鮮に関係したかは不明)。
また同人はIT専門家でもあり、北朝鮮当局から許可を得て、史上初めて北朝鮮発Webサイトを構築した人物なのだといいます。

もう一人のクリス・エムス(クリストファー・エムス)はTokenKeyというスタートアップの創業者CEOです。同人もまた、スペインにゆかりのある人物なのです。同人のLinkedInアカウントによれば、高校時代をスペインと英国で過ごして、また英国とスペインが係争問題を有してるジブラルタルにあるスタートアップで働いていたことがあるのです。
つまり、オーガナイザーから見ると、このブロックチェーン・カンファレンスには、スペインの陰が、さらにはそこに英国が介在している可能性すら見えるというわけなのです。

『~米欧の対東アジア政策の中での北朝鮮の意義とは?~』
スペインと言えば、2017年に在スペイン北朝鮮大使館襲撃事件が起こったばかりです。この事件に関しては、スペイン当局が猛烈な捜査を行っており、「臨時政府」樹立を宣言した反体制組織「自由朝鮮」が同事件の首班である旨、公表しています。この「自由朝鮮」(かつては脱北者支援団体「千里馬民防衛」と名乗っていた)は金正男の長男である金ハンソルの脱北に協力した勢力であるといいます。そしてその脱北には米中央情報局(CIA)が関与し、金ハンソルは現在米国に滞在していると報道されています。

この「自由朝鮮」は小規模ながらビットコイン・ファンドを設立し運営してきたのだといいます。さらに同組織は臨時「政府」としてイーサリアム・ベースのプラットフォーム上で構築したヴィザを1ETHで販売しているのです。このように、北朝鮮の反体制派は明らかに仮想通貨を活用しながら活動してきています。
他方で、北朝鮮を巡ってはかつて債券起債などで積極的に関わってきたフランスが俄かに近づきつつあると考えています。なぜならば、有名な旅行ガイドブック「プティフュテ」出版社がフランス語で執筆された北朝鮮の観光ガイドブックを初めて発刊したのです。またイタリアについても、駐イタリア北朝鮮公使が行方不明となりその娘が北朝鮮本国に送還されるという事態が生じ問題となっている一方で、トリエステにある先端研究国際大学院大学(SISSA)が金日成総合大学と学術交流協定を結び、北朝鮮からの留学生を受け入れることを決定したのです。欧州が北朝鮮へ更なる浸透を図っているというわけです。
以上を踏まえ、私の見解はこうです:

●東アジアを巡っては米欧らによる進出が進んできた。たとえば英国とフランスが軍事面で日本に接近してきた。またイスラエルもブロックチェーンを切り口に日本や韓国へと進出してきた。北朝鮮もその例外ではないと考える
●そもそも日本や米国が2000年代に経済制裁を強化し始めたこともあり「閉ざされた国」という印象が強いものの、冷戦期に東側に所属してきたこと、金正恩・労働党委員長がスイスの寄宿学校出身であることが典型例であるように、北朝鮮は歴史的に欧州との関係が深かった
●しかし、米朝首脳会談に当たり、英国やフランスが米国による非核化に協力する旨明らかにしてきたが、その他の欧州各国の動向はどちらかと言えばあまり注目されてこなかった印象がある。米国自身も北朝鮮の非核化について欧州連合(EU)、また英仏の関与が重要であるという方針を明らかにしている。これはあくまでも米国が主導する中で英仏らが関与することを許可しているという構造である。そのため、北朝鮮との関係が強かった欧州、その中でもスペインが今回反発したという可能性が在るというわけだ
●とはいえ米国も欧州も北朝鮮という閉鎖マーケット、すなわち最後のエマージング・マーケットを獲得すべく躍起になっていると考えられ、両者はそれを仮想通貨・ブロックチェーンを通じて、一方は体制側に、もう一方は反体制側に肩入れしながら「開国」に向けた準備を行っているという構図があり得るというわけだ
●ただし、体制側と反体制側の争いが表面上生じる以上、簡単に「開国」が生じるわけでは決してないというのが卑見である。むしろ現体制の刷新といった事態に向けて対立が“演出”されていく蓋然性が高いとすは考えている

このように日本の“隣国”を巡って、米欧の新たな戦略が進展しており、
そこに参画出来ない我々は“ババ”を掴まされないように、この問題について細心の注意を払うべきだと考えています。
北朝鮮が仮想通貨を発行するという可能性は決して低くないことは念頭に置くべきでしょう。







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