2021年09月07日

実はほとんどの人が理解していない「シンクタンク業界」とは。

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「キャリア官僚」の志望者が年々減少しており、2021年度は総合職試験を導入した2012年度以降で最大の減少幅であったといいます(参考)。他方で、東大生・京大生の就活人気ランキングで上位の多くを占めているのが「コンサル・シンクタンク業界」です(参考)。


大手コンサル並びにシンクタンクが集まる東京駅周辺
出典:officee

我が国ではよく「コンサル・シンクタンク業界」と一括りにされがちだが、その業務内容は大きく異なります。コンサルティング・ファームは「クライアントの課題を解決する」ことを目的としているのに対し、シンクタンクは、「社会や経済、政治、国際問題に関する調査・分析・研究をおこなう」ことを目的とする研究機関です。

ところが我が国の場合、シンクタンクといってもその多くが大手企業を母体とする金融系のシンクタンクであり、その企業のための調査案件、市場予測などをメインの仕事としているため、あるいはコンサルとの境界が曖昧となっているのかもしれませn。

現職、前職を含めシンクタンクで働いてきたが、「シンクタンク」といってもなかなか世間一般ではその認知度は低く、よく説明に苦慮したことも。そもそもシンクタンク数の国際比較においても、我が国は13位(137)となっており、これは、インド(612)やヴェトナム(180)といった他のアジア諸国よりも少ない数です。この背景には、我が国のシンクタンクにおける制度的要因も大きくかかわっていると思われます。そこで、そもそもシンクタンクの役割とはいかなるものなのかを、我が国におけるシンクタンク業界の動向も含めて、改めてみていきたいと思います。

図表:世界のシンクタンク数ランキング
出典:ペンシルヴァニア大学

シンクタンクは、直訳すると「think(考える)tank(戦車)」、つまり「知の戦車」であり、「武器」ではなく「知」をもって戦うための装置であると言えます。この名称のごとく、シンクタンクは世界的な危機に際して時代の要請に応えるべく誕生したという経緯があります。

例えば、「チャタムハウス・ルール」で有名な英国王立国際問題研究所と、外交誌『フォーリン・アフェアーズ』で有名な米国の外交問題評議会(CFR)は、第一次世界大戦後のパリ講和会議中に、英米リーダーシップが戦後秩序を構想しなければならないとの問題意識の共有をもとに発足した姉妹機関です。

とくに、外交問題評議会は、米国の対外政策決定に多大な影響力をもつといわれています。王立国際問題研究所はオックスフォード大学の研究者を中心に組織されましたが、他方でCFRではビジネスリーダーやウォール街の金融関係者、弁護士などが中心となり組織されました。ブルッキングス研究所やカーネギー国際平和基金、戦略国際問題研究所(CSIS)などの米国を代表する有名なシンクタンクは、その本部を首都ワシントンD.C.に置いているのに対し、CFRは本部をニューヨークに置いていることからも、CFRの政策がどこを向いているのかは容易に想像ができます。その影響力は絶大で、CFRから9名の大統領、19名の国務長官、14名のCIA長官など、多くの人材を米国政府中枢へと輩出しています。

外交問題評議会で講演する安倍前総理大臣。背後にCFRの名誉会長デイヴィッド・ロックフェラーの肖像画がみえる
出典:首相官邸

このようにシンクタンクの役割の一つとして、単なる学問の探究ではなく、現実の政策にかかわる研究ないしは提言があります。政策志向の研究を行うにあたっては、4つの基準が考えらます。すなわち、「非営利・営利」「独立・従属」「民間・官」「公益・私益」です。

我が国では官公庁(非営利・従属・官・公益)や民間企業(営利・従属・民間・私益)によるシンクタンクは多く設立されてきました。しかし、官公庁の場合、霞が関の根強いセクショナリズムの中にあって、所管官庁の政策に反する意見を出しにくいという構図もあり、また民間企業に従属の場合、小規模であれば政策研究を行う余裕が少なく、他方で大規模であっても親会社との資本的・人的結びつきゆえに、それに批判的な研究をしにくいという構図がああります。ここに、真に必要な研究を自由に行えるという意味での独立系シンクタンクが求められる所以があります。

さらに政策研究には、以下のようなアプローチを内包しています:

学際的研究(複雑化・高度化する社会問題を解決するには、特定分野のみの専門性に依拠した研究能力では限界がある)
問題志向型(大学における基礎研究、応用研究のように純粋な学術研究ではなく、実際の政策上の諸問題の解決に貢献しようとするものである)
未来志向型(政策研究にはつねに未来的・長期的視野が内包されるべきであるが、現状分析がメインとなりがちである)
そして、研究領域としては、総合研究開発機構(NIRA)発行の『シンクタンクの動向』による調査結果のグラフが参考になるでしょう。

図表:日本のシンクタンクの主な専門分野
出典:総合研究開発機構(NIRA)

このデータは2008年のものですが、それにしても「国際問題」への取り組みの乏しさが目立ちます。選挙で「外交は票にならない」といいますが、国際問題も経営上ペイできない、という背景がここにみてとれます。
そうした中で、独立系、未来志向型、国際問題もカバーできるシンクタンクという座標軸に幣研究所(IISIA)は位置しているが、これは稀有な存在であるということが言えます。
最後に、シンクタンクの最近の兆候として、中国やロシアのような専制体制の国家が、自国のシンクタンクを対外発信力強化の手段、すなわち情報戦の装置として使い始めているという点があります。とくに中国は、あらゆる手段を用いて制約なく戦う「超限戦」を展開する中で、シンクタンクを地政学のアクターとして活用しているのです。

数年前、北京にある中国社会科学院に出張し、意見交換に参加したことがありますが、帰国後、数日経ったら、「産経新聞」に「中国の研究機関が外国の思想に“汚染”されており、当局より注意があった」との旨の記事が掲載されていました。私の出張とこの記事の関係は不明だが、いずれにしても、進化しつづけるシンクタンクにつき、その果たすべき役割を改めて考えさせられます。






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